犬の慢性膀胱炎 尿膜管の遺残

症例紹介

●犬の慢性膀胱炎(尿膜管の遺残)

 5歳8か月になるウェリッシュコーギー・ペンブローグの男の子 もも太ちゃんが来院されました。10か月前に就寝時などを問わず、尿がポタポタと垂れることに気づき、経過をみていたところ、1か月前より頻尿症状が現れ始めたそうです。近医にて膀胱が腫れていると診断されたため、当院にて原因の解明と根治治療を希望され来院されました。

写真1

 もも太ちゃんの排尿症状は経過が長く、脊髄疾患などによる神経の痺れによる排尿障害を疑う所見もなく、健康状態はずっと良いことが特徴です。各種検査の結果、膀胱の頭側が広範囲に肥厚してしまい、膀胱に尿を貯める余裕がなくなったため頻尿症状が現れ始めたことが考えられました。尿漏れに関わる原因としては、膀胱壁の異常以外に顕著な異常が認められなかったため、長期にわたる膀胱の肥厚が膀胱の括約筋に関わる末梢神経に障害を与えている可能性も示唆されました。

 膀胱が肥厚する原因には、炎症などの良性病変、悪性腫瘍などが挙げられます。膀胱の肥厚している部位は、病状として経過が長く、比較的限局しており、悪性腫瘍に認められる転移所見もないことから、急いで外科的な治療を実施するのではなく、膀胱の肥厚を緩和する内科治療に対する反応をみてから、再度治療計画を考えることを提案させていただきました。

 もも太ちゃんの尿には、著しい細菌の増殖は認められなかったため、炎症を抑える効果のあるお薬を1カ月間投薬してもらい、内科治療による効果判定を行ったところ、膀胱壁の肥厚に改善は認められたものの、症状の改善は認められませんでした。

これらのことから、膀胱壁の肥厚は内科的治療には限界がある可能性が高いこと、炎症なのか腫瘍なのかを判別するために、以下の治療計画を提案しました。

治療計画

利点

欠点

①病理検査のみを行う

  • ・病理診断により、より精密な治療計画が立てられる
  • ・診断→治療となるので、理にかなった治療計画
  • ・採剤した組織量が少ないと、病理検査において診断不能と返ってくることもある
  • ・膀胱の異常な部分は内側にあり、かなり硬い組織のため、内視鏡を利用して採取するもしくは開腹して膀胱の一部を切り取る必要があるかもしれないので全身麻酔が必要となることも

②病理検査および治療を兼ねた異常部位の膀胱部分切除手術

  • ・病理診断が炎症もしくは良性腫瘍であった場合は、根治治療となる可能性が高い
  • ・単回の麻酔処置
  • ・病理検査が悪性腫瘍と診断された場合、再発の可能性が高くなり、再度治療が必要となる事も
  • ・全身麻酔が必要

 飼い主さまは、膀胱の異常部位が悪性腫瘍を強く疑う所見が少ないこと(経過が長いのに挙動は緩やか、転移もないこと)、できれば1回の麻酔処置で済ませてあげたいという希望があり、②の治療計画を希望されました。

 もも太ちゃんの膀胱壁は広範囲に肥厚しており、肥厚部は硬く、一部に潰瘍が存在していました。病理検査は“尿管膜の遺残を伴う慢性膀胱炎”であり、腫瘍病変は認められませんでした。

写真2

 手術後は膀胱の大きさが元に戻るまで、頻尿傾向となりますが、術後3カ月検診では大分頻尿は改善したとのことでした。尿漏れの頻度は減ってきているが、まだ完全に消失してはいないとのことでしたので、膀胱括約筋の働きを補助する治療を追加することで神経的な機能の回復を促してあげる治療を飼い主さまとともに模索しております。もも太ちゃん、手術お疲れ様だね。もう少し頑張ろうね。

写真3

 

→症例紹介一覧へ