股関節脱臼(外傷性)非観血的方法 大腿骨頭切除術

症例紹介

●股関節脱臼(外傷性)

 11歳になるトイプードルの女の子 獅子丸ちゃんが右後肢の挙上を主訴に来院されました。お父さん曰く、すごく仲の悪い同居犬と噛み合いの喧嘩を始めてしまい、2人を引き離すために獅子丸ちゃんを蹴飛ばすような形で仲裁に入ったところ、その後に右後肢を挙上しているとのことでした。

 獅子丸ちゃんは後ろ足の骨を触っても痛がる様子はありませんでしたが、股関節を動かすと激しい痛みがあり、股関節を形成する寛骨と大腿骨(太ももの骨)の位置関係がずれているのが触知され、X線検査でも右後肢の股関節脱臼が認められました。

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 股関節の脱臼は通常、外傷の結果で起こり、多くが片側性で、脱臼を発症するには大きな外力が必要となるため、胸部外傷などの怪我を併発している場合も少なくありません。海外の報告では59-83%は交通事故によるものが原因だったというものもあります。

 股関節脱臼の治療目的は、脱臼した関節面を正常の位置関係に整復・固定すること、損傷した関節包や筋肉などの周囲の軟部組織の治癒を促して、これらにも股関節の安定化を手伝ってもらうことで(偽関節と表現することもあります)、正常な臨床機能の回復を目指します。以下の表には現時点で多く採用されている術式を紹介します。

治療方法 特徴
非観血的方法 麻酔や鎮静処置は行い、脱臼を整復した後に、包帯や装具によって2-3週間ほど固定、周囲の軟部組織による安定化を図る方法。脱臼が起きた直後が望ましく、その後は関節内に血液や破損した円靭帯などが入り込み、適切に整復できなくなることが多い。再脱臼の発生率は15-71%。 (Basherら, 1986. Bornら, 1984. McLaughlinら, 1995.)。
ピンを用いた固定法 人工靭帯を取り付けたトグルピン、ノールスピンなどを用いて、受け皿である寛骨臼と大腿骨頭、それらを結び付ける円靭帯の固定と再建を行う手術です。リハビリの期間が比較的短く済むことが多いこと、骨折や関節炎がある子には不向きであること、外傷による大腿骨頭壊死が起き、痛みが生じた場合は再手術が必要となることがあります。
創外固定器を用いた固定法 ピンと創外固定器を組み合わせることで、のちに紹介する開放的整復法と比べ手術侵襲を少なくし、股関節の機能が安定するまでの時間を短縮できるよう考案された方法です。そのため手術時間も短く、手術直後から歩様が可能となる場合もあります。外傷による大腿骨頭壊死が起き、痛みが生じた場合は再手術が必要となることがあります。
大腿骨頭切除術 大腿骨の一部である大腿骨頭という部分を水平に切り出し、破れてしまった関節包を整復することで、股関節を面と面で擦れ合う新しい関節に作り変える方法です。再脱臼の発生率が低く、外傷による大腿骨頭壊死がおきた場合や骨頭部の骨折が併発している脱臼にも対応していますが、股関節の機能が安定するまで約3カ月以上のリハビリが必要となる手術です。

 獅子丸ちゃんは受傷から日が浅く、11歳であることから、負担の少ない非観血的方法による整復を試みましたが、固定後に再度脱臼をしてしまったため、同法による整復が難しい事が分かりました。

 X線検査では左右の股関節に変形性関節炎が認められ、加齢によるものが考えられた獅子丸ちゃん。飼主様は外科治療が必要ならば、脱臼整復後に関節炎で痛みが発現する可能性が少ない方法を希望されたため、大腿骨頭切除術による治療を提案しました。手術直後は3本足で歩くことに慣れてしまっているため、ついていない足を接地するリハビリからスタートしました。その後は屈伸運動および歩行運動を繰り返し、獅子丸ちゃんはおよそ3カ月の長い時間でしたが、無事に正常な歩行機能を取り戻すことができました。獅子丸ちゃん、そしてご家族の皆様、やり遂げましたな!本当にお疲れさまでした!

写真②
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