犬の脾臓腫瘤 過形成

症例紹介

●犬の脾臓腫瘤(過形成)

 10歳3カ月になるレオンベルガーの未去勢雄 アーガスちゃんが脾臓腫瘤を主訴に来院されました。自宅にて突如、力なく座り込んでしまっため、夜間救急病院で診察を受けたところ、脾臓というお腹の中にある臓器に腫瘤ができ、その腫瘤が破裂して大出血を起こしたため、虚脱してしまったことが分かったそうです。

 アーガスちゃんのご家族は夜間病院の担当の先生に、脾臓腫瘤を摘出する手術を提案されたそうですが、手術をしない方法・する方法のそれぞれの利点欠点について、詳しい話を聞くことができなかったそうです。

 大型犬で10歳という年齢のアーガスちゃんにとって、脾臓腫瘤が悪性腫瘍だった場合、手術に成功しても比較的早期に転移を起して、腫瘍死してしまうことも予想されます。ご家族は1番納得のいく治療方法について熟考したいとのことで当院を訪ねて下さいました。

治療計画と目的 利点 欠点
①手術をしない方法
自然のまま、ありのままにこの病気を受け入れる
お腹の痛みは鎮痛剤で緩和し、生活の質を上げる
  • ・負担が少ない
  • ・外科治療による痛みや全身麻酔による合併症もなく、抗癌剤などの化学療法による副作用もない
  • ・良性病変だった場合、再度腫瘤から出血や、痛みが生じる場合があるため、アーガスちゃん本人に辛い時間を長く強いることになることもある
  • ・やっぱり治療を!と思った時には不利な状況となる場合が多い
②手術をする方法
開腹手術により、脾臓ごと腫瘤を摘出して病理検査を行う
  • ・治療だけでなく、診断名が分かり、より精密な治療計画が立てられる
  • ・良性もしくは悪性腫瘍に関わらず、腫瘤の破裂による出血および痛みをなくすことができる
  • ・費用がかかる
  • ・手術と麻酔に耐える体力が必要
  • ・脾臓を失うことでヘモバルトネラなどの感染症に感染しやすくなるという報告もある
写真①

 当院での診察後、当院で処方した痛み止めによってアーガスちゃんが元気や食欲が戻った様子を見て、アーガスちゃんのご家族は、どんな結果であれこの苦しい状態からアーガスちゃんを解放してあげたいと思ったそうです。そこで、手術前に血液検査と画像診断を行うことでアーガスちゃんにとって手術する意味(病態が進行し過ぎていないか)と手術を受ける体力があるかを判断した上で、②手術する方法を選ばれました。アーガスちゃんは術前検査において大きさ5cm大の脾臓腫瘤が認められ、心臓・肺などに異常な所見はなく、血液検査および身体検査では手術に耐えうる体力もあることが分かりました。アーガスちゃんのご家族は手術を希望され、アーガスちゃんは無事にこの手術を乗り切りました。脾臓腫瘤の病理検査結果は過形成 であり、悪性腫瘍ではありませんでした。

写真②

 犬の脾臓腫瘤は2/3は腫瘍性疾患であり、さらにその2/3は悪性腫瘍であるという報告があります。脾臓の悪性腫瘍の50%は血管肉腫であり、血管肉腫および様々な肉腫の生存中央値 4カ月(Spanglerら, 1994)、病気を発見してから1年以内に亡くなってしまう確率が80~100%という報告もあります。

 脾臓の“過形成もしくは過形成性結節”は非腫瘍性の疾患であり、何らかの炎症刺激により脾臓の一部が反応性に腫大したものとされています。無治療の場合、小さくなることはなく表面が脆弱なことから、不定期な破裂によって貧血と重度の腹痛を引き起こしますが、摘出することで根治的な治療となります。可能性にかけて奇跡を勝ち取った王者アーガス。本当に良かった!アーガス、お疲れ様でした!!

写真③

 

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