症例紹介
●犬の慢性膀胱炎(過去の手術痕による膀胱壁の肥厚)と前立腺嚢胞
当時8歳 未去勢雄のシーズーさん、ラッキーちゃんが尿結石症についての相談で来院されました。過去にラッキーちゃんは2ヵ月前に結石が詰まって尿道閉塞を起こし、膀胱破裂となったため、以前のかかりつけの先生に緊急で手術治療してもらった既往歴があります。ラッキーちゃんのお母さんは手術後、排尿回数が1日7-8回であり回数が多くなっていること、念のために禁止されていたおやつを再開できるかの2点について精査して欲しいとのことでした。
初診時、尿検査および腹部超音波検査では4つの異常が認められました。
- ・尿検査で細菌感染を伴わない血尿
- ・膀胱壁の肥厚(過去の膀胱破裂時に縫合した跡と思われる)
- ・左右腎臓には1mm大の腎結石
- ・前立線の肥大および複数の嚢胞

飼い主さまには以下のご説明を致しました。
- ①腎結石は今現在の獣医療で溶解する手段がないため経過観察が重要であり、自然に尿へ排泄される際に粘膜を傷つけることで血尿の原因となったり、尿管や尿道に詰まることでラッキーちゃんにとって重篤な病態を引き起こした時は(急にご飯を食べなくなる・吐く)、すぐ連絡をすること。腎結石は正常な尿の排泄環境を保つ事で、しっかりと尿から腎結石を排泄させることも重要であること。
- ②膀胱壁が肥厚していることで、膀胱本来の自然な収縮できず、尿の正常な排泄も不十分である可能性が高い。手術から2ヵ月経過しているので、経過観察だけでは状態の改善が見込めないかもしれない。膀胱壁の肥厚に効果があるお薬によって、膀胱壁の肥厚とラッキーちゃんの排尿状況に改善が認められるかどうか治療を始めましょう。
- ③前立線肥大および前立線嚢胞は、去勢の手術もしくはお薬の使用で治療効果が見込めるが、今回の症状に関わるほどひどくはないように感じる。
- ④おかしの再開についてはこれらの病態に、どれ程影響するかは分からないので、再開してみて有害となるならば、再度禁止しましょう(腎結石が増えた、膀胱結石が新たに出現したなど)。
その後、お菓子の再開がラッキーちゃんに悪影響を与えている様子がないか半年間の経過観察を行いました。今回の検査ではラッキーちゃんにとっておかしが、明白に結石や排尿状態に悪影響を与えていない事がわかりました。膀胱壁の肥厚については内科治療では効果が見られず、血尿は散発的に認められました。
次の治療方法として内科治療では改善が認められない膀胱の肥厚している部分をきれいに切除してあげる事で正常な膀胱の状態に戻す方法を提案致しました(膀胱部分切除術による治療)。飼い主さまは膀胱の手術と併せて、前立線肥大および嚢胞に対する治療として去勢の手術も同時に希望されました。

術後1週間は頻尿と尿の最後に血液が認められましたが、術後2週目の抜糸時には排尿回数は1日4回ほどになり血尿も改善したとのことでした。術後の3ヵ月目の検診時は膀胱壁も正常な厚さに戻りました。今のところ、腎臓の結石も尿と一緒に良好に排泄されている様子です。長かったねラッキーちゃん!そろそろ10歳!まだまだ元気に可愛くね!
