犬の鼠径ヘルニア 手術による整復

症例紹介

●犬の鼠径ヘルニア

 鼠径ヘルニアの“鼠径”とは、解剖学的には腹部と大腿部の境界内側部分のことを表す言葉で、わかりやすくいうと後肢のつけ根の領域を指します。この鼠径部に存在する腹部の腹筋群と大腿部の線維組織の結合により、腹部の腸・子宮(雌の場合)などの内臓が飛び出ないようにしてくれているのですが、何らかの理由(生まれつき、肥満・妊娠や外傷などによる腹圧の上昇、ステロイドホルモンの影響など)で鼠径部の結合が損なわれ、腹部の内臓の一部が飛び出てしまう病気を鼠径ヘルニアと言います。

 鼠径ヘルニアは様々な犬種で報告があります(Hayesら,1974)。診断方法として、片側または両側の鼠径部に膨らみが触知でき、用手にてヘルニア内容がヘルニア孔より腹腔内にもどることが特徴です。
 腹部X線検査および腹部超音波検査などの画像診断は確定診断だけでなく、安全かつ有効な治療計画を立てる上で重要な手がかりとなる検査です。ヘルニア内容がヘルニア孔に対して大きすぎる、ヘルニア孔で絞扼もしくは嵌頓を生じている場合には腹腔内にもどすことできない場合もあり、その他の鑑別疾患として鼠径部の皮膚もしくは皮下腫瘍(雄の停留精巣腫瘍、肥満細胞腫など)があるからです。
 整復手術による治療効果は良好で、再発もほとんど認められていません(Gognyら,2010)。鼠径ヘルニアを発症した雌犬は潜在的な遺伝形質をもつ可能性があるため、繁殖には推奨されていません(Foxら, 1963)。自身が治療させていただいた鼠径ヘルニアの症例は、女の子のわんちゃんで鼠径ヘルニア部から子宮が脱出しているケースが多いです。

 当院で鼠径ヘルニアの整復手術を希望されたチョコちゃんは、9歳4ヵ月になる未避妊雌のロングコートチワワの子です。主訴として2日前から元気にムラがあり、食欲も落ちている、陰部からおりものが出ているとのことでした。
 身体検査では左側に鼠径ヘルニアは認められるものの、ヘルニアを触ると痛がる・吐き気および便秘などの症状はなく、チョコちゃんの体調不良の原因となるものではないと判断しました。
チョコちゃんのお母さんには、40.3℃の発熱があることもあり、発熱を起こす病気と陰部からのおりものが出る原因に関する精査を優先することをお勧めしました。

写真①

 結果、子宮蓄膿症などによる生殖器疾患が発熱・元気、食欲の減退を引き起こしている可能性があることが分かりました。今回の検査で、チョコちゃんは中高齢でありますが、生殖器の病気以外の内臓はとても元気であり、積極的な治療にも耐えられる体力もあることが分かりました。
 治療方法として手術による外科治療とお薬治療による内科治療の2つの方法を提案したところ(犬の子宮蓄膿症をご参考下さい)、お母さんは全身麻酔が必要であり、チョコちゃんの体力も心配だけれど、根治的な効果のあることから外科治療をご希望されました。また、万一の病状進行の可能性を考慮して今回の外科治療と一緒に鼠径ヘルニアも整復したいとのことでした。

写真②

 チョコちゃんは手術後、麻酔からの覚醒および回復が良好であったので、お母さんの希望で手術当日に退院されました。帰宅後、少量ずつご飯を食べ始め、術後11日目ではいつも通りの体調に戻ったとのことでした。

写真③

 鼠径ヘルニアは、脱出している臓器や大きさ・その臓器の状態(無症状もしくは絞扼または嵌頓しているか)、ヘルニアにより自分の子が困っているか、治療に耐えられる体力があるかなどの評価が非常に重要です。経過観察とするか、整復手術とするかは担当の先生とよく話し合って決定しましょうね。

 

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