犬の停留精巣(潜在精巣、停滞精巣、停留睾丸、陰睾、片玉、片キン)

症例紹介

●犬の停留精巣(潜在精巣、停滞精巣、停留睾丸、陰睾、片玉、片キン)

停留精巣とは陰嚢内に精巣(睾丸とも呼びます)が入っていない状態をいいます。犬では、精巣が下降する正常な時期は通常10日齢までに起こるとされていますが、犬種によりいくらかばらつきがあるそうです。8週齢までに陰嚢内に精巣が触知されなければ、停留精巣と診断されます。

Yatesら(2003)の報告では、停留精巣の犬は犬全体の7%未満であり、停留精巣の犬のうち、30%がチワワ、20%がボクサー、14%がジャーマン・シェパードだったとしています。

停留精巣には両側よりも片側停留精巣がよくみられます。過去の報告では、下降していない精巣は腹腔内もしくは鼠径部の皮下にほぼ同等の確率で存在し、左側停留精巣と右側停留精巣の発生率では明らかな差はないとされていますが、右側の精巣は停留精巣しやすいという報告もあります(Hayesら,1976および Weaverら,1983)(写真①、②)。真性の単精巣(1つの精巣が欠損している)は非常にまれとされています。

   
写真①
写真①
写真②
写真②

下降していない精巣は正常ではなく、特に腹腔内精巣では精子形成能の欠如が顕著であり、のちに精巣が陰嚢内に下降しても精子形成能は回復しません。片側性の停留精巣の子は精液中の精子数は正常な子より少ないですが、繁殖は可能です。間質細胞はテストステロンを産生し続けるので、性欲は一般的に正常です。

停留精巣を下降させる内科治療の効果は不明とされています。過去にヒト絨毛ゴナドトロピンで治療した停留精巣の雄犬において、陰嚢のごく近くに位置していた可動性の精巣が、偶然かつ突然に下降したという結果が時々起こったというものがあります。腹腔内の停留精巣が内科的治療で下降したという報告はないそうです。

通常の陰嚢内精巣の犬に比べて、停留精巣の犬では精巣腫瘍の発生率が9倍高くなること、Hayesら(1985)の報告では停留精巣の犬のうち約6%で精巣腫瘍を発生したとされています(写真③)。

写真③
写真③

犬の精巣腫瘍は去勢手術により、ほとんどの場合は根治が可能ですが、まれですが転移する症例も存在します。転移率は、セルトリ細胞腫・精上皮腫で15%以下、間質細胞腫はしないとされています。転移したセルトリ細胞腫もしくは精上皮腫に対しては、早期の去勢手術および術後の化学療法や放射線療法を用いることで治すことはできませんが、優れた緩和および延命効果が認められたというケースがあります。

以上のことから
・停留精巣だから必ず腫瘍になってしまうというわけではない
・停留睾丸における早期の去勢手術は精巣腫瘍のリスクを回避できる、欠点は太りやすい体質になる
・精巣腫瘍となってしまった場合は転移がないか・手術する体力があるか・手術する意味があるのかをちゃんと先生に判断してもらう

私見ですが、停留睾丸でなにより注意しなければならない事は、停留睾丸の腫瘍化だと思います。精巣腫瘍は悪性腫瘍であっても早期治療で根治が期待できる数少ない腫瘍です。停留睾丸や精巣腫瘍で悩んでいたら、かかりつけの先生でも当院でもよいのでご相談ください。

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