犬の表皮嚢胞 非腫瘍性の病変

症例紹介

●犬の表皮嚢胞(非腫瘍性の病変)

9歳になるヨークシャーテリアのココアちゃんが来院されました。未去勢の男の子で、数週前に見つけた腰のあたりにあるしこりを調べて欲しいとのことでした。症状として、家族の方がしこりを触ると痛がり、噛み付いてくるとのことでした(写真①)。

写真①
写真①

身体検査ではしこりは2カ所あり、いずれもココアちゃんの腰背部の皮膚の下に存在していました。大きさは1cmおよび0.2cm程度であり、触感としては硬く、周囲の組織とはくっついておらず、カプセルに包まれているような感触です。しこりが存在する真上の皮膚は赤くなっており、炎症を起こしていることが推測され、これが原因で痛みを生じていることが考えられました。その他の皮膚には同様のしこりは認められず、ココアちゃんの体表に存在するリンパ節に異常は認められませんでした。この時点で、ココアちゃんのお母さんには細胞診断という注射針を使って、しこりの成分の一部を観察する検査の許可をいただきました。採取されたものは白い粒つぶした物質であり、特殊な染色を施し、観察を行うと、よく分化した上皮細胞(角化物、フケ)を主体とし、一部に炎症に関わる細胞が認められる所見でした(写真②)。

写真②
写真②

以上の所見から、ココアちゃんにできた皮膚の下のしこりは角化物などを内包する嚢胞という病気が疑われること、悪性腫瘍の可能性は低いことをお話ししました。 ココアちゃんのお母さんには治療方法として、①ココアちゃんの命を奪うような病気である可能性低いので、徐々に増大して破裂することはあるが、積極的な治療はせず、消毒やお薬で困った事が起きた時に症状を和らげる緩和治療 ②今ココアちゃんには痛みがあり、いずれ大きくなって破裂するリスクもあるならば、手術で嚢胞を摘出することで、痛みと嚢胞を根本的に治してしまう根治治療の2つを提案しました。

治療方法 利点 欠点
①緩和治療
(消毒、薬)
・手術と比べ費用少ない
・麻酔がかけられない子も適応可能
・嚢胞の場合、元の袋を取り除かないと再び内容物が溜まり、元に戻る
②根治治療
(手術)
・根治的な治療
・費用はかかるが、摘出した組織を病理検査出すことで、最終診断名を出すこともできる
・費用がかかる
・麻酔が必要

ココアちゃんのお母さんの希望は、いずれ破裂してしまうことがあるならば、しこりを根本的に治したい、摘出した組織も病理検査に出して、悪性腫瘍が隠れていないかどうかを調べたいとのことでした。
9歳であるココアちゃんは中年齢ではありますが、一般状態が良いこと、身体検査では麻酔に対するリスクは低いこと、またお母さんが追加検査せずに手術治療を希望されたため、後日治療を兼ねた切除生検手術を実施しました。手術後、自宅でいつも通りご飯も食べてくれたココアちゃん。術後2週間で抜糸を行い、傷口は良好に治癒してくれました(写真③)。

写真③
写真③

病理検査結果は表皮嚢胞といわれる非腫瘍性の病変であり、嚢胞は取り切れていること、組織に悪性腫瘍を疑う所見はなかったとのことでした。ココアちゃん、本当にお疲れさまだね。
犬の皮膚にできる嚢胞には表皮性、毛包性、アポクリン(皮脂腺)性があり、原因としてそれぞれの組織や導管が袋状の変化を起こすことが考えられています。毛包性嚢胞は外傷が原因となる場合もあります。これらの嚢胞の多くは後天的に発生しますが、稀に先天性の場合も報告があります。嚢胞は単発性あるいは多発性であり、ある報告では嚢胞発生犬のうち3〜5%が多発性だったそうです。多くは中齢から高齢の犬で発生しています。外科的切除で通常すべての嚢胞は治癒します。

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