皮膚 肥満細胞腫(低悪性度)皮膚腫瘤

症例紹介

●皮膚の肥満細胞腫(低悪性度)
写真1:レアルちゃん
写真1:レアルちゃん

12歳になるジャックラッセルテリアのレアルちゃんが来院されました。最近、皮膚にあるしこりが大きくなってきたとのことです。(写真1:レアルちゃん)

身体検査ではしこりは2ヵ所あり、胸部の背側と腹側に存在する皮膚腫瘤でした。腹側の皮膚腫瘤は大きさ1cm程度でドーム状~ややいびつな形をしています。背側の皮膚腫瘤は大きさ1.5cm程度で有茎状、一部に発毛が見られました。

レアルちゃんの飼い主様は、今後腫瘤が増大して破裂や出血するのが心配なので、手術による摘出と腫瘤の良悪判定のため病理組織検査を希望されました。

手術前の細胞診検査では、腹部の皮膚腫瘤の肥満細胞腫に特徴的な細胞質内に好塩基性顆粒をもつ独立円形細胞が多数採取されました。その他、体表のリンパ節などに異常は認められず、転移が考えられる臓器にも異常は認められませんでした。(写真2)

写真2
写真2

ヒトでは皮膚の肥満細胞腫は良性腫瘍に位置づけられていますが、わんちゃんの場合は悪性腫瘍に分類されます。犬の皮膚の肥満細胞腫における予後因子として、以前は発生部位が挙げられていましたが(包皮や爪床に発生したものは悪い肥満細胞腫が多い)、近年はこれらの考えは否定され、発生部位よりも組織学的な悪性度(病理組織検査が必要)に依存すると考えられています。

レアルちゃんの病理検査結果は、“肥満細胞腫 中等度分化型(PutnaikⅡ型)または低悪性度・低グレード(Klupelの分類)”と診断されました。

Putnaik、Klupelといった言葉は有名な病理専門医の名前であり、それぞれの先生が提唱した分類方法で肥満細胞腫の悪性度を判定します。現在はPatnaik分類が論文や学会発表において一般的に使用されており、この分類法ではグレードⅠ〜ⅢというⅢ段階で分類を行ない、極端に予後が悪いものがⅢ、様々な挙動を示すⅡ、極端に予後の良いⅠと評価されていました。しかし、この分類では悪性度と予後が相関しない例が現れ始め問題となっていました(グレードⅡと診断されたのに、病状の悪化や進行の早さがⅢと評価されてもおかしくないくらいのものなど)。

臨床医にとって、この問題はオーナー様への説明・治療計画の間違いが生じる可能性があるため、深刻なものでした。そこで近年注目されているがKlupelが提唱した分類です。この分類による発表はPatnaik分類と比べ、少ないものですが今後の予後判定の指標として広く用いられていくでしょう。

以上の所見の他に、レアルちゃんの切除した腫瘤の境界は比較的明瞭で、一緒に切除した深部の筋層下には浸潤は認められず、完全切除されているとのことでした。

これらの情報と過去の報告を踏まえると、レアルちゃんの場合、今回の手術で再発のリスクは低く、抗がん剤による補助的化学療法の適応(手術で切除しきれていない、悪性度が高い、転移が認められるなど)となりにくいことを説明し、オーナー様と相談した結果、転移や多発する場合もあるため、今後とも要注意経過観察としました。

年齢を考慮して2週間後に無事に抜糸ができ、残る背側の皮膚腫瘤も悪性腫瘍でない“付属器母斑”と診断され、切除して完治するものなので一安心。(写真3)

写真3
写真3

レアルちゃんお疲れ様だったね。今度の春に定期検診だね。

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